朝井リョウ「イン・ザ・メガチャーチ」Audibleで聴いた

・途中までネタバレ無し感想です。

・けっこう面白かった

・4/9にAudibleで配信された本。気になってたので以前からウィッシュリストに入れてた。それとは別の事象として4/9に本屋大賞に選ばれた本でもある。

・推し活をテーマにした小説ですね~。

・主人公は3人。推し活を仕掛ける側の友達がいないバツイチおじさんサラリーマン、おじさんの娘にしておじさんが仕掛けた推し活戦略にハマって搾取されてしまう女子大生、推してた俳優が自殺して謎の陰謀論にのめり込んでしまう中年女性。

・突然だけど、おれって推し活という概念とも、それを推す側とも、それを冷笑する側とも、なんとなく距離をとってたんだよな。

・推し活って、それに興味のないスノッブっぽい人には「よく知らない人がよく知らないまま無神経に言及して雑にバカにしても許されるサンドバッグ的存在」として冷笑的に扱われてるわけじゃないですか。このような存在として、ほかに村上春樹、スターバックス、隈研吾、撮り鉄、ヴィーガン、ミニマリズム、中国製電気自動車、ラーメン二郎などがあります。こういう概念は、賛であれ否であれ、強い覚悟無しに関わって愉快な気持ちになれることはあまり無い。だから推し活がテーマのインザメを聴くのはそんなに気が進まなかった。でもまあ、推し活はもちろん、それ以外の現代的なトピックスについてもおもしろく描かれてて意外とけっこう興味深く読めた。

・推し活小説って「推し燃ゆ」が一番有名なんだと思うけど、あれは推しが燃えたことで人生の背骨が消えてしまった人間の話であって推し活自体の話かと言われると微妙だったよね~。

・最初は推し活に対するネガティブな話ばかり出てきて、オッ推し活冷笑問題提起小説か?しょうもないな~、って思ってたけど最終的に別にそんなことなくてちゃんと芯があってバランスのとれた良い小説だった。話もシンプルにけっこうおもしろいと思う。

・「正欲」みたいな、言われてみれば確かに存在していたけど、言われるまであんまり意識していなかったな、という概念を浮き彫りにする小説だ。

・朝井リョウって桐島部活と正欲くらいしか読んだ(聴いた)ことないんだけど、とはいえおれはわりと好感をもってる作家なんだよな。正欲を読んで、オッこれが令和最新版文学のパワーか~って思った。正欲って、水が変形するのを見て興奮する謎の性癖を持つ人が社会に理解されずに生きていくのを描く小説で、性欲と多様性についての示唆に富んだ独特すぎる小説なんだよな。実際に正欲で出てくる性癖をおれはいままで想像したこともなくて、でも知ってしまったらもう世界の見え方がぜんぜん変わってしまった。まあもちろん普段はいつも通り変わらず何も考えず生きているんだけど、水が変形するのを見て興奮する謎の性癖のことを知る前には戻れなくなってしまった。そういう、見えていなかった存在に光を当てるのが(特に令和の)文学のパワーなんだと思う。

・知ってしまったから何がどうなるという話でもないんだけどさ。

・インザメでは新概念として「チャーチマーケティング」が登場する。海外では何年か前からあった概念のようだし、日本でもググれば何年か前から言及してる人もいたけど、日本で流行らせたのはインザメだと言っていいだろう(要出典)(独自研究)。

・チャーチマーケティングとは、要するに、熱狂的で盲目的なファンをつけてそいつを囲い込んで貢がせつつ、そいつに布教活動もさせまくろうぜ、という終末思想のことだ。名前が付いていなかっただけで、このようなマーケティング手法は昔からあった。そして最近、爆発的に広がっている気がする。

・おれはもうこの概念を知る前には戻れない。インザメは、ある政治政党とか、陰謀論者とか、宗教とか、推し活ビジネスが、特定の気質の人間に対して同じような人間心理を悪用している(チャーチマーケティングを使っている)という共通点でくくれることを浮き彫りにしている。

・そういう商法って「信者ビジネス」とかそういう言葉で括られることはあったけど、その手の言葉には侮蔑的な意味が含まれていて中立性に欠けるし、スラング的で通じる範囲が狭くて使い勝手も悪かった。チャーチマーケティングという、中立的で、そして日本人が惹かれる横文字の名前がついたことは大変ありがたい。

・この小説はチャーチマーケティングがもたらす視野の狭い熱狂のことを必ずしも全否定はしていないし、福祉や慈善事業に応用することも可能だと説明しているものの、この商法を基本的には悪辣なものとして描いている。これって日本人にとって幸運なことだと思う。まあ小説がチャーチマーケティングを描く上で、悪辣なもの以外として描くことは無理だとも思うけど。とはいえビジネス書だったらはうっかり肯定的に紹介しちゃうこともあるだろう。

・「◯◯マーケティング」と横文字で言われる、おれたちは何か素晴らしくて役に立つ賢いものだと勘違いしてしまいがちだ。「商法」と言われると悪辣で詐欺的なものに感じてしまうけど、”マーケティング”と横文字で言われるとフェアで潔白なものだというイメージがどうしてもついてしまう。この概念を日本に輸入したのがビジネス書じゃなくて朝井リョウで本当によかったと思う。

・友人、とか、雑談、みたいな身近なワードについての示唆にも富んでいておもしろかった。平日昼間のカフェに女性は多いけど私服の男性が一切いない、という気付きから発展して、おじさんには基本的に友達がいない、という意外と意識していない現実的な問題に話が飛ぶ展開があって、ふ~ん確かにな~って思った。これ、実際なんでなんやろなあ。

・平日昼間のカフェにおじさんが居ないのは、もちろんおじさんが昼間にサラリーマンをやっているからではある。じゃあ休日昼間はどうなんだと言えば、やっぱりおじさん複数人グループっていないんだよな。作中では、おじさんは雑談をしないからカフェにいないのだ、おばさんはよく雑談をしている、その中身は意外と現実的な情報交換で、おじさんはそれをしない、つまり男性には強さを誇示する人が多くて、弱みを見せ合うような毛づくろい的コミュニケーションをしない、だからカフェにいないのだ、…みたいな、それらしき結論っぽいものが用意されている。だいぶそれっぽいけど、それだけなんかなあ。

・でもまあ、キツめのおじさんとか、陰謀論者とか、仕上がってるファンダムとか、そういうものを戯画的に描きすぎで、フェアさに欠ける(仕上がってない人目線すぎる)んじゃないかという気持ちもある。仕上がった人を描いた小説なんだから全員仕上がってるのは当然なんだけど、それにしても急に仕上がり過ぎだろ・・・。

・それにしても今後はチャーチマーケティングみたいなのがもっと流行して行くんかなあ。かつては陰謀論者とか新興宗教が用いた手法だけど、それがポストトゥルース時代と、そして資本主義と合体してしまうのを想像すると、もう終わりだよこの国以外の感想がない。

以下ネタバレ

登場人物一覧

・おじさん 無神経だし傲慢ではあるけど果たしてこの人がそんな悪いことをしただろうか、とも思う。現代においておじさんはいくら可哀想な目にあってもいいし、実際にいくらでも可哀想な目にあうのだ・・・。

・チャミスル カスすぎる アクスタをパクるところで急に加速してくるのがイカつすぎる。

・あやこ 陰謀論者が意外と時々自分のおかしさにフと気づくの、なんかリアルだな~。おれの母親は激仕上がってる煮詰まった陰謀論者なんだけど、確かに完全に陰謀論のことを心から信じ切ってるわけでもないっぽくて、意外と自分の言ってることのおかしさに心の底では疑いを向けてる感じがするんだよな。でも基本的には気づかないふりをしている。彼らって必ずしも100%の狂信者ではないんだけど、だからこそ戻ってこれなくなってしまうんだよな。

・泉 ドンマイとしか言いようがない 多くの読者からは狂人として見られるだろうけど、激推ししてた推しが自殺してしまったらこうなるのも自然だと思う。陰謀論者になると周囲から孤立するけど、元から孤立してる人は陰謀論者になると逆に友人ができてしまう・・・。

・ともよ なんなんだよこいつ

・青木 なんやかんやこいつが一番カスだろ 一生ビタミンC飲んどけ

・国見 死んでください

・橋本 なにがしたかったんだお前は

・かきはなみちや なんとも言えん

・パーティーに大勢呼んだ奴 パーティーに大勢呼ぶな こいつがチャーチマーケティングを学ぶのを阻止しないと世界が終わると思う

・ジェシカ バーカ

・はなかんむりさん ボケ

・ユリちゃん こいつだけが理性を保ってるように見える でもこいつがいちばん狂ってる気もする

・イタコ 死んでください こいつが引き際をわきまえてて絶対に無茶しないのが本当に嫌すぎる 破滅してください

せろりん
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